「年商は1,000万円超えてるのに、なぜローンが通らないんですか?」
こう言って、ショックを受けているお客様を何人も見てきました。事業は好調、売上も順調に伸びている。なのに銀行から「融資は難しい」と言われてしまう。この現実に直面して、初めて自営業の住宅ローンの厳しさを知る方は少なくありません。
実は、自営業やフリーランスの住宅ローン審査では、売上(収入)がいくらあっても関係ないのです。銀行が見ているのは「所得」です。この違いを理解していないと、せっかくマイホーム購入を決意しても、審査でつまずいてしまいます。
この記事では、不動産業界で15年以上お客様の住宅ローン相談を受けてきた経験から、なぜ売上ではなく所得が重要なのか、そしてどう対策すればいいのかを解説します。
銀行が見ているのは「確定申告書の所得金額」
会社員の方なら、源泉徴収票に書かれている「年収」がそのまま審査の対象になります。年収500万円なら、500万円の返済能力があると判断されるわけです。
しかし、自営業やフリーランスの場合はまったく違います。銀行が審査で見るのは、確定申告書に記載された「所得金額」です。
所得 = 売上(収入) – 経費
つまり、年商が1,000万円あっても、経費が700万円かかっていれば、所得は300万円。銀行は「この人の年収は300万円」として審査するのです。
なぜ売上ではなく所得を見るのか
これには明確な理由があります。銀行にとって重要なのは「この人が実際に自由に使えるお金はいくらあるのか」という点です。
売上が高くても、その大部分が経費として出ていくなら、手元に残るお金は少ないですよね。住宅ローンの返済は、あくまで「手元に残ったお金」から支払われるものです。だから銀行は、経費を差し引いた後の「所得」を見るのです。
節税対策が裏目に出る典型パターン
15年間、数えきれないほどのお客様と接してきましたが、「節税のために所得を抑えていたら、住宅ローンが通らなかった」というケースは本当に多いです。
Aさんのケース:売上1,200万円なのに審査否決
Aさんは30代後半のWebデザイナーです。独立して5年、売上は安定して年間1,200万円前後。「そろそろマイホームを」と考えて住宅ローンに申し込みました。
ところが、銀行からの回答は「融資は難しい」。理由を聞くと、「所得が少なすぎる」とのこと。
確定申告書を見せていただくと、確かに所得は年間200万円ほど。事業に必要な機材購入費、交通費、通信費、自宅兼事務所の家賃…様々な経費を計上して、節税対策をしっかりされていました。
「税金を抑えるためにやってきたことが、まさかローンの足かせになるなんて」と、Aさんは肩を落としていました。
会社員との比較で見えてくる不利さ
ここで、会社員のBさんと比較してみましょう。
Aさん(自営業)
- 売上:1,200万円
- 経費:1,000万円
- 所得:200万円 ← 審査対象
Bさん(会社員)
- 年収:600万円 ← 審査対象
実際の生活レベルや支払能力は同じくらいでも、銀行の審査では天と地の差が出てしまいます。Bさんは問題なく3,000万円程度の融資が受けられる一方、Aさんは希望額の半分以下しか借りられない、あるいは審査に通らないこともあるのです。
3期分の確定申告が審査の対象になる
さらに厳しいのが、「直近1年だけ頑張っても意味がない」という点です。
多くの銀行では、直近3期分の確定申告書の提出を求めます。そして、その3期分をどう評価するかは銀行によって異なります。
評価方法は主に2パターン
パターン①:3期分の平均値を見る
3年前の所得:200万円 2年前の所得:400万円 直近の所得:600万円
この場合、平均値の400万円を審査対象とする銀行が多いです。
パターン②:最も低い期を基準にする
同じ数字でも、最も低い200万円を基準にする銀行もあります。この場合、借入可能額はさらに厳しくなります。
「今期は多めに申告しよう」では間に合わない
ここで多くの方が考えるのが、「じゃあ今年は経費を減らして、所得を多めに申告しよう」という対策です。
しかし、これでは遅いのです。来年申告する今期分だけを増やしても、過去2期分の所得が低ければ、3期平均は大して上がりません。
もっと厳しいのは、銀行によっては「直近3期連続で黒字であること」「所得が安定して増加傾向にあること」を条件にしているケースもある点です。
※2026年1月現在、フラット35の一部商品では最新1期分のみで審査してもらえる場合もありますが、貸出金額は年収の6〜7倍程度に制限されるケースが多く、自己資金を多めに用意する必要があります。
今からできる3つの対策
では、どうすればいいのか。具体的な対策を3つお伝えします。
①少なくとも3年前から計画的に所得を確保する
マイホーム購入を考え始めたら、すぐに確定申告の方針を見直しましょう。
節税も大切ですが、住宅ローンを組むためには「ある程度の所得を確保する」ことが必要です。理想は、希望借入額から逆算して必要な所得を計算し、それを3期連続で維持することです。
一般的に、住宅ローンは年収(所得)の6〜7倍程度が借入可能額の目安です。3,000万円借りたいなら、少なくとも年間所得で400〜500万円は必要になります。
②頭金を多めに用意する
所得が十分に確保できない場合、頭金を多めに用意するのも有効な対策です。
例えば、3,500万円の物件を購入する場合、頭金500万円を用意して借入額を3,000万円に抑えれば、審査のハードルは下がります。自己資金を多く出せることは、銀行にとって「この人は計画的にお金を貯められる人だ」という信用にもつながります。
③メインバンクに早めに相談する
事業用の口座を開設している銀行があれば、そこに早めに相談するのも一つの手です。
日頃から取引があり、入出金の履歴が見えている銀行なら、「確定申告上の所得は低いけれど、実際の事業は健全に回っている」という実態を理解してもらえる可能性があります。
金融機関によっては、確定申告書だけでなく事業の実態や資産状況も含めて総合的に判断してくれるケースもあります。
まとめ:売上と所得の違いを理解することから始めよう
自営業やフリーランスの住宅ローンで最も重要なポイントは、銀行が見ているのは売上ではなく所得であるという事実です。
✓ 審査対象は「売上-経費=所得」 ✓ 節税対策が住宅ローンでは不利に働く ✓ 直近3期分の確定申告が評価対象 ✓ 今期だけ頑張っても間に合わない ✓ 最低でも3年前から計画的に準備する必要がある
「もっと早く知っていれば…」と後悔する方を何人も見てきました。マイホーム購入を考え始めたら、まずは自分の確定申告書を見直してみてください。そして、3年後を見据えて、今からできることを始めましょう。
節税と住宅ローン、両方を上手にバランスをとることが、自営業・フリーランスの方には求められます。理想的なのは、税理士さんに「数年後に住宅ローンを考えている」と早めに相談しておくことです。
※本記事の内容は2026年1月現在の情報に基づいています。金融機関の審査基準は変更される場合がありますので、実際に申し込む際は各金融機関に最新の条件をご確認ください。

